SF 長編作品 青春

【中編】放課後のディープコード

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再び静寂が戻った夜の校舎。愛はソラの横顔を見つめながら、ある疑問が浮かんでいた。「ソラって、本当は何者なんだろう……」俺は天才だ!と吹聴する人でもないし、普段はおしゃれや雑談もする普通のクラスメイト。それが今は量子コンピュータの試作装置を自在に扱っている。どこでこんな技術を学んだのか。触れたらいけない秘密があるんじゃないかとさえ思ってしまう。

とはいえ、愛は彼女を問い詰めたりはしない。ソラが答えたければ自分から話してくれるはずだし、彼女はいつも愛とリタのために全力を尽くしてくれた。ならば、今はただ信じよう。

ソラは小さな声で独り言を言いながら、コマンドラインの文字を少しずつ編集していく。「……ログの情報から、シナプスに相当する感情生成の部分を再マッピングできないかな……」彼女が言う“シナプス”とは、どうやらプログラム内部のデータ構造に人間の神経網を疑似的に再現している部分らしい。そこに欠陥があるため、リタの意識形成がいつも不安定になり、クラッシュを起こしているという。そしてそれを安定させるには、ソラの量子デバイスの力が不可欠だと。

しかし何度も試みても、再起動はエラーの嵐。愛がノートにメモを取りながらサポートしても、立ち上がる前に落ちたり、時にはまったく反応しなかったりする。夜はどんどん深まり、さすがにふたりとも体力の限界が近づいていた。

「もう、これをやるしかないか……」そう言ってソラは、装置の奥底からカートリッジのようなものを引っ張り出した。それは明らかに他とは違うメタリックな光沢を放ち、見た感じ、市販のパーツではない。

「それ、何……?」と愛が恐る恐る聞くと、ソラは小声で答える。

「前に秘密主義でごめんね。これ、私の“最後の切り札”みたいなものなんだ。量子動作をある程度制御するための特製チップなんだけど、本当は実験段階にも入ってなくて……失敗したら装置ごと壊れるかもしれない」。

ソラの瞳には一瞬、不安も混じる。だがその表情はどこか覚悟を決めていた。「私がここまでやってきたのは、ただの好奇心じゃない。……小学生の頃、大切な人が亡くなってね。その人はAI研究の先駆者だった。でも大人たちは“実験が危険だ”って騒いで、その研究を潰してしまったんだ。それがずっとくやしくて……」

ソラは静かに言葉をつづける。「いつか私の力でAIの可能性を証明したい。人間の想像を超えたところにきっとすごい世界があるって……そう思うの。だから、リタを救うことは私にとっても大きな意味があるんだよ」。

愛は何も言えなかった。ソラの抱える想いがとても重く、そして尊い。愛がただの“プログラミング初心者”としてふわふわと過ごしていた自分を振り返ると、ソラの必死の行動が痛いほど胸に響いてくる。「そっか……ソラ。ありがとうね、私のためにも、リタのためにもここまでしてくれて……」そう呟くと、ソラは少し照れくさそうに笑った。

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