SF 長編作品 青春

【前編】放課後のディープコード

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翌朝、愛たちは部活でもなく、普通の放課後の時間にこっそりと作業を続けることにした。プログラミング部の部室に先生や先輩が来ると邪魔される恐れがあるからだ。そこで目をつけたのが、校舎の地下倉庫にある使われていない空き教室。ここなら他の生徒も滅多に足を踏み入れない。

ソラが持っている秘密の“独自デバイス”を、どうやら「Rita」のエラー修正に使えそうだと彼女は言う。愛が詳しく尋ねても、ソラは「まぁ、私のオリジナル回路ってところかな。通信を拡張し、プログラムをシミュレートする実験台のようなもの」という抽象的な説明しかしない。興味をそそられるばかりだが、“ヒミツ主義”のソラを問い詰めても仕方がない。愛はかすかな期待を抱きながら、放課後にソラと連れ立って例の空き教室へ向かった。

教室は薄暗く、蛍光灯が点いたり消えたりを繰り返す廊下の端に位置している。鍵はかかっていなかったため、そっとドアを開けると、積まれた段ボールや古い机が放置されているだけの小さな部屋だった。ソラは段ボールをどけ、テーブルの代わりに机を縦に並べる。そして奥から出してきたのは、やはり独特の外観の装置だ。ノートPCより少し大きい金属の箱で、無数のLEDや配線がむき出しになっている。その中央には液晶パネルのようなものも取り付けられていた。

「ここに、リタのプログラムを移してみようと思うんだ。普通のPCだと再現出来ない仕組みを入れていてさ。多分だけど、リタの『感情生成モジュール』に近い何かを動かす鍵になるかもしれない」とソラ。その目を見ていると、彼女はただの“理系少女”というより、まるで小さな科学者のようになっている。“学校にこんな子がいたなんて”と愛は改めて感心する。愛がケーブルを受け取り、慎重にノートPCとソラの装置を繋げる。タブレットから抜き出したデータを経由する形で、リタに仮想的な“身代わり”のプロセッサとメモリ領域を与えよう、という試みである。

作業の合間、愛は不意に気になって尋ねた。「ソラはさ、どうしてこんなことをしてくれるの?」するとソラは少し笑って「理由なんて特にないよ。面白そうだから。それに、AIが感情を持つってすごくわくわくしない?」とあっけらかんと答える。意外にも気軽な返事に、愛は拍子抜けしながらも少し安堵した。最先端のことをしているのに、ソラは常に軽やかで、どこか自由だ。そんな彼女の存在が、愛にとっては心強く感じられる。

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