第四章「地域の清掃活動」
朝六時、防災無線から流れるチャイムで目が覚めた。今日は地域の清掃活動の日だ。
集合場所の公民館に着くと、すでに数十人の住民が集まっていた。みな軍手をはめ、大きなハサミを手にしている。
「伏見さん、こちらです」
川上さんが手招きし、清掃道具を渡してくれた。
「初めての方もいらっしゃいますので、改めて注意事項を説明します」
区長らしき男性が前に立った。
「特に重要なのは、柘榴の実や葉を拾わないことです。各家庭の柘榴は、その家の者しか触れてはいけません」
美桜は首を傾げた。なぜそこまで柘榴にこだわるのか。周りの住民たちは、当たり前のように頷いている。
清掃が始まり、美桜は川上さんと同じ班になった。道路脇の草むしりをしながら、老婆は昔話を始めた。
「この辺りはね、昔から柘榴の木が多かったの。でも、今じゃうちの家と、あなたの家くらいしか残ってないわ」
「どうしてですか?」
「みんな切ってしまったのよ。あの事件の後にね」
老婆の表情が暗くなった。
「事件というと...」
その時、誰かが大声を上げた。
「あっ!血が!」
清掃班の一人が指を切ったらしい。しかし、傷口から流れる血は、異常に濃い赤色をしていた。まるで、熟れた柘榴の実のような色だった。
「大丈夫ですか?」
美桜が駆け寄ろうとすると、周囲の人々が一斉に制止した。
「触れちゃダメ!」
なぜそこまで過剰に反応するのか理解できなかった。怪我人は救急車で運ばれ、清掃活動は早々に切り上げとなった。
帰り道、美桜は不思議な光景を目にした。公民館の裏手で、数人の老人たちが円陣を組み、何かを囁きあっている。
「願いの成就には、相応の代価が必要です」 「しかし、もう限界かもしれません」 「あの家に来た娘さんも、きっと...」
声が途切れた。老人たちは美桜に気付き、さっと散っていった。
家に戻ると、庭の柘榴の木が昨日より大きく育ったように見えた。葉は鮮やかな緑色で、実はわずかに赤みを帯び始めていた。
「成長が早すぎる...」
昨日見つけたガラス瓶のことを思い出した。手紙を読まなければ、何か重要なことを見逃してしまいそうな気がする。
夕方、再び庭に出て瓶を探したが、見つからない。確かにここに埋めてあったはずなのに。
「探し物?」
背後から声がした。振り返ると、"もう一人の自分"が柘榴の木の下に立っていた。長い黒髪が風に揺れ、不気味な笑みを浮かべている。
「あなたは...誰?」
問いかけに答えず、幻影は木々の間に消えていった。
その夜、美桜は悪夢にうなされた。
夢の中で、無数の柘榴が血のように赤く熟れ、次々と地面に落ちていく。その一つ一つが、人の顔に見えた。
目が覚めると、枕元に一枚の紙切れが置かれていた。
「願いを叶えたいなら、柘榴の木に聞け」
誰が置いたのか。美桜の手は震えていた。
雲見の柘榴が落ちるとき