突如、部屋の奥から機械音が響いた。巨大な装置が起動し始める。モニターには新たな映像が映し出された。
『時間取引所・記録映像』という文字の後、地下に広がる巨大な取引場が映し出される。そこでは、人々が自身の時間を売買していた。
若さと引き換えに富を得る者。 寿命と引き換えに病気の子供を救う親。 記憶と引き換えに過去を消す者。
「まるで、闇市場のようだ...」 青木が呟く。
モニターに藍が映る。彼女は取引所の中央で、白衣姿のまま立っていた。 『私は、全ての時間を売ることを決意しました』 藍の声が響く。 『しかし、それには代償が...』
映像が乱れ、切れた。
私のスマートフォンが再び鳴る。 今度は、メッセージだった。
『時詠みチョコレートの秘密を知りたければ、 病院の食堂へ来なさい。 —時間の管理人より』
食堂に向かう途中、廊下の温度が急激に上昇した。持っていたペットボトルの水が沸騰を始める。時間の逆行現象が強まっているようだ。
食堂に入ると、テーブルの上にチョコレートの箱が置かれていた。 開けると、中には一粒のチョコレートと、古ぼけた日記が入っていた。
日記には藍の文字で、こう書かれていた:
『時詠みチョコレートの作り方: ・月光の下で熟成させたカカオ豆 ・時計の歯車から削り取った真鍮の粉 ・そして最後に、作り手の「時間」を注ぎ込む
このチョコレートを食べた者は、時間を操る力を得る。 しかし、その代償として...』
ページの続きは破り取られていた。
「瞬さん、これを」 青木が指さす先には、壁一面に描かれた複雑な図形。まるで、時間を管理するための装置の設計図のようだった。
スマートフォンは「15:00」を指している。 時計の針は、更に激しく狂い始めていた。
時詠みのチョコレート
~愛の半減期~