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【第2話】時詠みのチョコレート~時を喰う甘噛み~

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【プロローグ】時詠みのチョコレート~失われた約束~
【第1話】時詠みのチョコレート~廃墟のバレンタイン~
【第2話】時詠みのチョコレート~時を喰う甘噛み~
【第3話】時詠みのチョコレート~愛の半減期~
【エピローグ】時詠みのチョコレート~時を紡ぐ者たち~

モニターに映る藍の姿は、私の記憶よりも若かった。白衣を着た彼女は、カメラに向かって何かを話している。音声は途切れ途切れだが、かろうじて聞き取れた。

『これは、実験記録001。時間価値転換の検証を開始する。被験体は...私自身』

「瞬さん!」 青木の声で我に返る。部屋の温度が急激に低下し、壁一面の時計が一斉に逆回転を始めていた。

スマートフォンは「17:30」を指している。しかし、窓の外は既に夜の闇に包まれていた。時間が逆行している。

『時詠みチョコレート。それは、時間を物質化する触媒』 藍の声が続く。 『このチョコレートを介することで、人は自身の時間を切り売りすることができる』

私は木箱から取り出したチョコレートを見つめた。包装紙の裏には、複雑な化学式が書き込まれている。

突然、ポケットの中の携帯電話が鳴った。ディスプレイには「非通知」の文字。

「もしもし」 『彼女は時間の檻の中にいる』 低い声が響く。 『如月藍は、自分の全ての時間を売った。そして、その代償として「時間の調停者」となった』

通話は一方的に切れた。青木が資料を手に、私の元へ走ってきた。

「これを見てください」 それは、病院の古い会計記録だった。2009年、如月家は突然の経営危機に陥っていた。しかし翌日、謎の資金が入金され、危機を脱していた。

「時間を...売った?」 私は呟いた。

その瞬間、部屋の隅にある暗室のドアが開いた。私たちが先ほど撮影した写真が、勝手に現像され始める。 写真には、私たちには見えなかった藍の姿が写っていた。彼女は悲しそうな表情で、何かを指さしている。

部屋の壁に、新たな文字が浮かび上がる。

『時間の価値は、経済価値に換算できる。 1年=1億円 1日=27万3973円 1時間=1万1416円 1分=190円 1秒=3.17円』

「これが、時間の売買相場...?」 青木が震える声で言った。

スマートフォンは「16:00」を指している。しかし、腕時計は23時を指していた。 時間の歪みが強まっている。

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