「僕は、時間の管理者になる」
言った瞬間、部屋中の時計が一斉に止まった。 藍の顔に、安堵の表情が浮かぶ。
「本当にいいの? 私と同じように、時間という重荷を背負うことになるのよ」
「構わない。だって...」 私は藍に近づいた。 「誰かの時間を守れるなら、それは幸せなことじゃないかな」
スマートフォンは「01:00」を示している。 残された時間は、わずかだ。
「では、最後の手順を」 藍がカプセルに手を置く。 「このチョコレートを食べて。これが、私からの本当のバレンタインよ」
15年前のチョコレートを口に含んだ瞬間、世界が光に包まれた。 私の中に、無数の記憶が流れ込んでくる。 人々の時間の記録。 宇宙の摂理。 そして、藍との思い出。
「これが、時間の調停者の記憶...」
私の体が光り始める。 それは、新たな時間の管理者として選ばれた証。
藍が微笑む。 「ありがとう、瞬くん。私の時間を...受け継いでくれて」
彼女の姿が、光の粒子となって舞い上がっていく。 最後の最後まで、彼女は私に微笑みかけていた。
スマートフォンのカウントダウンが「00:00」を指す。 新たな時間が、動き出した。
私は深く息を吸い込んだ。 これから私は、人々の大切な時間を守っていく。 それは、藍から受け継いだ、愛おしい責務。
時計の針は、また新たな時を刻み始めた。
時詠みのチョコレート
~時を紡ぐ者たち~