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【第3話】時詠みのチョコレート~愛の半減期~

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「私の記憶は、あなたの中にあるのよ」 藍が言う。 「15年前、私は時間を売って管理者になった。でも、それだけじゃ足りなかった」

スマートフォンは「06:00」を指している。 建物全体が軋むような音を立てる。

「人の時間を管理するには、膨大な知識が必要だった。だから私は...自分の記憶をあなたの中に少しずつ移していったの」

そう言えば、建築の仕事を選んだのも、数式に興味を持ち始めたのも、全て藍が消えた後だった。

「でも、なぜ僕を?」

「私にはわかっていたの。いつか時間の重みに耐えられなくなる時が来ることを。その時、私の代わりを務められるのは、あなたしかいないって」

カプセルの中の藍の体が、ゆっくりと崩れ始める。 時間という重荷に、彼女の存在が耐えられなくなっているのだ。

「選択肢は2つ」 藍が言う。 「私の代わりに時間の管理者になるか、それとも...全てを元に戻すか」

「元に戻す?」

「そう。15年前に戻り、私が時間を売ることを止めるの。でも、そうすれば...私たちの記憶も、この15年も、全て消えてしまう」

スマートフォンは「03:00」を指している。 選択の時間が迫っていた。

私は藍を見つめた。 彼女の透明な姿が、少しずつ光を失っていく。

「僕は...」

時計の針が、最後のカウントダウンを始めた。 この選択が、全ての時を決定する。

私は、深く息を吸い込んだ。

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