この話のシリーズ一覧
【プロローグ】時詠みのチョコレート~失われた約束~ |
【第1話】時詠みのチョコレート~廃墟のバレンタイン~ |
【第2話】時詠みのチョコレート~時を喰う甘噛み~ |
【第3話】時詠みのチョコレート~愛の半減期~ |
【エピローグ】時詠みのチョコレート~時を紡ぐ者たち~ |
本文
時計は狂い、記憶が溶けていく。
私は食堂のテーブルに置かれたチョコレートを手に取った。表面には微細な時計の歯車が刻印されている。これを分析すれば、何か手がかりが得られるかもしれない。
「青木さん、このチョコレートを」 振り返った時、私は息を飲んだ。 青木の姿が、ゆっくりと透明になっていく。
「私の時間が...消えていく」 彼の声が遠くなる。 「実は私も...15年前、大切な人を失ったんです。その人も...時間を売ったのかもしれない」
完全に消える直前、青木は微笑んだ。 「瞬さん、彼女を...見つけてください」
私は一人になった。 スマートフォンは「12:00」を指している。残り時間は刻一刻と減っていく。
チョコレートを分析してみると、通常の10倍ものテオブロミンが検出された。そして、その分子構造は螺旋を描いていた。まるで、DNAのように。時間そのものを組み換えるための配列か。
突然、床が大きく揺れ始めた。天井から埃が降り注ぎ、壁にひびが入る。 建物が、時間の重みに耐えきれなくなっているようだった。
私は地下へと急いだ。 最下層には、巨大な機械が うなりを上げていた。その中心には、透明なカプセルがある。
カプセルの中で、藍が眠っていた。 15年前と変わらない姿で。
モニターが点滅する。
『時間管理システム起動 現管理者:如月藍 状態:臨界点突破 新管理者選定要請』
記憶が走馬灯のように蘇る。 いや、これは私の記憶だろうか?
私には見覚えのない数式の知識。 理解できるはずのない時間物理学の理論。 まるで、誰かの記憶が私の中に...
「気付いたようね」
振り返ると、そこに藍が立っていた。 透明な姿で。