SF サスペンス ミステリー

【第1話】時詠みのチョコレート~廃墟のバレンタイン~

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職員証の裏には、手書きのメモが残されていた。

『時間の価値を知っていますか? 一秒の価値は、それを失った人にしかわからない。地下研究棟B-3にて』

「地下研究棟?」 青木が首を傾げる。 「この病院の図面には、そんな場所は記載されていませんでした」

私は職員証を握りしめた。汗ばんだ手のひらに、金属の冷たさが伝わる。

「探してみましょう」

私たちは地下への階段を探し始めた。スマートフォンのカウントダウンは「18:45」を指している。時間の感覚が狂い始めているのか、歩く度に廊下が長く感じられた。

そして、古びた非常口の扉の向こうに、私たちは見つけた。 下へと続く螺旋階段。手すりは錆び付き、コンクリートの壁には緑色の苔が生えていた。

「この先は危険かもしれません」 私は青木に言った。 「撮影は中止しても構いません」

しかし彼は首を振った。 「ここまで来て引き返すつもりはありません。それに...」 彼は一瞬言葉を詰まらせた。 「私にも、探している人がいるんです」

階段を降りていく。足元のライトが、湿った空気の中で不気味な影を作る。

B-1、B-2、そしてB-3。 扉の前で立ち止まった時、スマートフォンが再び震えた。画面には「18:00」の文字。同時に、持っていた懐中時計の針が狂ったように回り始めた。

扉を開けると、そこには予想もしなかった光景が広がっていた。

無数の時計が壁一面に並び、全てが異なる時を刻んでいた。部屋の中央には巨大な装置が設置されている。まるで、時間を研究するための実験室のようだった。

「これは...」

装置の操作パネルには、2009年当時の日付が表示されていた。その横には使用記録が残されていた。

最後の記録日時:2009年2月14日 23時59分 使用者:如月藍 実験内容:時間価値転換プロトコル

「藍は、この装置で何を...」

その時、部屋の電源が突如として入った。蛍光灯が明滅し、装置が唸りを上げる。 そして、監視モニターに映し出されたのは、15年前の藍の姿だった。

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