PART6
まず、3番目の「開発者へのメッセージ」を実行してみることにした。アプリにはこれまで「未来の出来事」を淡々と通知する機能しかないと思っていたが、よく見るとメニューの隅に「開発者へフィードバック」というボタンがあった。ためらいながらもタップすると、簡易的な問い合わせフォームが表示される。そこに「差し迫った予知があり、友人が危険にさらされようとしている。具体的に何をすればいい?」という趣旨の文章を書き込んで送信した。
返事は意外と早く届いた。わずか10分ほどですぐに通知が鳴り、画面には簡潔な文章が表示された。
「あなたがアプリを通じて未来の可能性を知ったことには、必ず意味があります。いまこそ行動を起こすときです。未来を確定させるのは、他でもない“あなたの選択”です。」
問いに対する直接的な解決策は与えてくれない。自分で考えろ、ということらしい。それは同時に、「情報を得ているだけで満足してはいけない」ということを強く示唆していた。いつもなら「ああ、面倒くさいな」などと呟いてアプリを閉じてしまうところだが、今回は違う。亮二はその言葉を深く嚙みしめると、心の中に一つの答えが浮かんだ。
「そうだ。大杉の予定を変えられないなら、俺がついて行けばいい。事故が起きるかもしれない時間帯には、絶対に気を張って現場を見守る。もし何か起きてもすぐに動いて助けるんだ。」
実際、自分がどうすれば「被害を食い止められる」かははっきりわからない。だが、何もしないよりはマシだ。それに、これまではほとんど自分ひとりの問題だったが、今回は友人が危険にさらされるのだとわかっている。人を救わないまま後悔するのは、もう真っ平ごめんだ。こうして、亮二は生まれて初めて「自分から予定を立てる」ことを試みることになる。
6月7日当日。打ち合わせは順調に終了し、予定通り大杉は午後1時半すぎには先方のオフィスを出た。亮二は、自分のほうから「やっぱり一緒に行くよ」と前日に声をかけており、その申し出に大杉は拍子抜けするほど素直に喜んだ。まさか、彼が自分のためにここまで動いているとは夢にも思わないだろう。
時刻は1時50分。交差点までは徒歩で10分ほど。大通りに出ると、日差しが強く照りつけ、道ゆく人の数も多い。車の往来も激しく、クラクションがときどき鳴り響く。亮二は密かにスマホを確認した。アプリからはまだ何の追加通知もない。その事実が逆に不気味だ。あと10分ほどで何が起こるのか想像もつかないが、とにかく大杉の近くにいれば対処ができるかもしれない。それだけを頼りに歩みを進める。