朝日が差し込み、また新しい一日が始まる。スマートフォンのアラームを止めながら、優子は重たい体を起こした。休暇中なのに、習慣でセットしたアラーム。消そうとした指が、途中で止まる。
「予定がないのに、どうして起きなきゃいけないんだろう」
そう思いながらも、体は機械的に動く。歯を磨き、顔を洗い、コーヒーを入れる。いつもの朝の儀式。
キッチンの窓から見える空は、驚くほど青い。雲一つない夏空が、どこまでも広がっている。その青さが、かえって優子の心を締め付けた。
「みんな、今頃どうしてるんだろう」
SNSを開こうとして、途中で止める。これ以上、他人の充実した夏休みを見る気にはなれなかった。
テーブルの上のカレンダーに目をやる。まだ休暇は10日も残っている。その空白の日々が、まるで砂漠のように果てしなく感じられた。
「このまま…このままでいいのかな」
独り言が、部屋の空気に溶けていく。答えのない問いかけ。それでも、その言葉は優子の心に小さな波紋を広げ始めていた。
変化を求める気持ちと、現状に留まろうとする惰性。その狭間で揺れる心を抱えたまま、優子は窓の外を見つめ続けた。
まだ朝の9時。長い一日が、また始まろうとしていた。
真夏の輪郭~旅立ちの決意~