ドラマ 青春

【第2話】真夏の輪郭~旅立ちの決意~

駅のホームに降り立った瞬間、潮風が優子の頬を撫でた。東京とは違う、塩気を含んだ空気。プラットホームには、数人の乗客が降り立っただけだった。

「まるで、時間が違う場所に来たみたい…」

古びた駅舎。青と白のツートンカラーの壁。待合室のベンチには誰も座っていない。昭和の雰囲気を残したままの佇まいに、どこか懐かしさを覚える。

改札を出ると、そこには小さな駅前広場が広がっていた。タクシーは一台も見当たらず、代わりに数台の自転車が無造作に置かれている。商店のシャッターは半分ほど下りたまま。観光地特有の賑わいは、ここにはなかった。

優子は宿までの道のりを、もう一度地図で確認する。徒歩15分。この暑さの中、キャリーケースを引いて歩くのは少し大変かもしれない。でも、それすら今は楽しみに思えた。

「あの、東屋旅館まで行かれます?」

声をかけてきたのは、小柄な老婆だった。軽トラックの運転席から、優子を見つめている。

「あ、はい…」 「乗りなさい。どうせ行く途中だから」

戸惑う優子に、老婆は助手席のドアを開けた。

「ご、ご迷惑では…」 「この町じゃ、こんなの当たり前よ」

老婆は優しく微笑んだ。その笑顔に背中を押され、優子は助手席に座る。キャリーケースは荷台に載せてもらった。

軽トラックはゆっくりと走り出す。開け放たれた窓から、潮の香りが流れ込んでくる。

「初めて?この町」 「はい」 「一人?」 「はい…」

老婆は運転しながら、時折優子の方をちらりと見る。 「勇気があるねぇ。でも、いい町だよ。ゆっくりできる」

その言葉に、優子は少し緊張が解けるのを感じた。

軽トラックは路地を曲がり、海岸線に出た。一瞬、まぶしいほどの青が視界いっぱいに広がる。

そこには、雑誌で見た風景が、確かに待っていた。

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