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【プロローグ】時詠みのチョコレート~失われた約束~

【プロローグ】時詠みのチョコレート~失われた約束~
【第1話】時詠みのチョコレート~廃墟のバレンタイン~
【第2話】時詠みのチョコレート~時を喰う甘噛み~
【第3話】時詠みのチョコレート~愛の半減期~
【エピローグ】時詠みのチョコレート~時を紡ぐ者たち~

時計の針が午後11時59分を指そうとしていた。

私は薄暗い地下室で、古びた木箱を前に膝をついていた。埃まみれの箱の表面には「2009.2.14」という日付が刻まれている。15年前のバレンタインデー。藍が姿を消した日だ。

「開けますか?」 後ろで青木が囁くように言った。カメラを構えた彼の呼吸が、冷たい地下室の空気を震わせる。

「ああ」 私は木箱の留め金に手をかけた。錆びついた金具は、かすかな軋みを上げて開いた。

中には、茶色く変色したチョコレートの箱と、銀色の懐中時計が収められていた。チョコレートの包装紙には、藍の特徴的な筆跡で「私を探して」と書かれている。

「瞬さん、これ...」 青木の声が途切れた。私のスマートフォンの画面が突如として明るく光り、「23:59:59」というカウントダウンが表示されたのだ。

その瞬間、地下室全体が震え始めた。天井から砂埃が降り注ぎ、壁面に無数の数式が浮かび上がる。私には見覚えのある数式だった。しかし、それは私の記憶とは明らかに矛盾していた。

「これは...まさか」 私は懐中時計を手に取った。カチカチと刻まれる音が、異様に大きく響く。針は12時を指そうとしていた。

15年前、藍は私にこう言った。 「瞬くん、時間って売れるって知ってた?」

当時の私は、それを冗談だと思っていた。しかし今、この廃病院の地下で私は確信していた。藍は時間を売った。そして、その代償として姿を消したのだ。

チョコレートの箱から漂う甘い香りが、記憶の奥底を刺激する。そこには、まだ誰も知らない真実が眠っていた。

時計の針が12時を指した瞬間、世界が歪み始めた。これが、私と藍の物語の始まりだった。

あの日、約束は破られ、時間は狂い始めた。そして今、15年の時を経て、私は再び藍を探す旅に出ようとしていた。

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