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【番外編】夜の片隅で~蛍光灯の向こう側~

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1.夜の片隅で~コールセンターの夜勤明けに~
2.夜の片隅で~深夜の切なさに~
3.夜の片隅で~蛍光灯の下で~
【番外編】夜の片隅で~蛍光灯の向こう側~

番外編は「【第2話】夜の片隅で~深夜の切なさに~」の分岐ストーリーです。

「お客様、大変申し訳ございません。ただいま回線が──」

その時だった。
突如として大きな揺れが事務所を襲った。蛍光灯が不規則に明滅し、モニターが次々とブラックアウトしていく。

「皆さん、机の下に!」

咄嗟に叫んだ俺の声に、夜勤スタッフが反応する。34歳の彼女──水島さんも、隣の机の下に身を屈める。目が合った。その瞬間、天井が崩落した。


「課長...課長!」

意識が戻る。目を開けると、そこは見知らぬ草原だった。青い空。紫色の雲。二つの月。
明らかに地球ではない。

「水島さん?」

彼女は俺の傍らで膝をついていた。オフィスの制服姿のまま。手には例の差し入れの缶コーヒー。

「良かった...目を覚まして」

涙ぐむ彼女の表情に、胸が痛んだ。
周囲を見回すと、コールセンターのデスクやパソコン、電話機器が無造作に散らばっている。まるで、オフィスごと異世界に飛ばされたかのようだ。

「他のスタッフは?」

「私たち以外...見当たらないんです」

その時、遠くから鈴の音が聞こえてきた。振り返ると、巨大な獣に引かれた馬車が近づいてくる。御者は、尖った耳を持つ女性。エルフ...だろうか。

「おや、異界人か。しかも機械を持っているとは」

エルフは馬車を止め、俺たちを見下ろした。

「我が国では、異界からの訪問者は王都で登録が必要です。そこまでお連れしましょう」

返事に窮していると、突然、水島さんのデスクの電話が鳴り響いた。
びくりと体が跳ねる。こんな異世界で、なぜ?

「はい、○○コールセンターでございます」

咄嗟に電話に出る水島さん。プロ意識なのか、パニックなのか。

『あの、スマートフォンの調子が悪くて...』

確かに地球の客からの電話だ。なぜか回線が繋がっている。

「申し訳ございません。ただいま異世界に転移しておりまして...」

「水島さん!普通に対応してください!」


エルフは首を傾げながら、この奇妙なやり取りを眺めている。
それから一ヶ月が経過した。
王都に到着した俺たちは、「異世界コールセンター」として正式に認可された。

地球との回線は、なぜか深夜の時間帯だけ繋がる。昼は異世界の住人からの相談対応。魔法の不具合や、モンスターの対処法など。

「課長、これ魔法でつくったコーヒーです」

水島さんが差し入れを持ってくる。地球のコーヒーが切れてからは、現地の魔法使いに作り方を教えてもらったという代用品だ。

「ありがとう...って、これうまい」

「でしょう?地球のより美味しいかも」

彼女は嬉しそうに微笑む。

「そういえば、課長は地球に戻りたいですか?」

突然の質問に、言葉に詰まる。確かに、地球での生活は寂しかった。でも...

「戻るなら、一緒に戻りたいな」

思わず口にした言葉に、水島さんの顔が赤くなる。

その時、電話が鳴った。受話器を取ると、懐かしい地球の声。

「はい、異世界コールセンターでございます。私どもは、両世界の架け橋として...」

窓の外では紫色の雲が流れ、机の上では魔法のコーヒーが湯気を立てている。かつての彼女のことは、もう心の奥底へと沈んでいった。

今は目の前にいる人と、この不思議な日常を大切にしたい。

「課長、次の相談者はドラゴンだそうです」

「えっ、マジで!?」

笑い合う二人の上で、二つの月が優しく輝いていた。


その夜の相談記録:
地球側:洗濯機の故障 3件、携帯電話の設定 2件、インターネット接続トラブル 5件
異世界側:魔法の杖の不具合 4件、ドラゴンとの共生相談 1件、モンスター対策 6件
その他:世界間通信障害の報告 2件

明日もまた、異世界コールセンターは開かれる。

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